一般・患者様の皆さまへ

GENERAL

●監修
自治医科大学附属さいたま医療センター
集中治療部
部長・学内准教授 方山 真朱 先生

輸液を知ろう!

INFUSION

 輸液とは、体に必要な水分や電解質、栄養素などを、血管内に直接投与する治療のことをさします。病院で患者さんの腕に針を刺し、薬剤の入った袋を吊り下げてゆっくりと注入する「点滴」を見たことがある方も多いでしょう。それが輸液の代表的な形です。

豆知識

医療現場では、点滴として投与される比較的量の多いものを「輸液」、注射器で短時間に投与される少量のものを「注射」と取り扱います。一般的に、50 mL以上のものが「輸液」と呼ばれています。

 ヒトの体は成人で約60%が水分でできており、この水分は血液や細胞内外に存在しながら、体温調節、栄養素や酸素の運搬、老廃物の排出など、生命維持に不可欠な役割を担っています。

 私たちは通常、飲食によって水分をはじめ必要な成分を補給していますが、病気や体調不良の際には、それが難しくなることがあります。

 たとえば、発熱、下痢、嘔吐で水分が失われやすいとき(とくに高齢者は喉の渇きを感じにくく、脱水が進行しやすい)、手術後や重い病気の治療中で消化管が十分に働かないとき、意識や筋力が低下して食事や内服が困難なとき、などです。

 このような状態では、体のもつ調整力(体内環境を一定に保つはたらき=ホメオスターシス)が崩れやすくなります。そのため、血管内に直接、必要な成分を届ける輸液が、体調の回復を支える重要な治療手段となります。

どんなときに輸液が必要なの? どんなときに輸液が必要なの?

豆知識

体内の水分は、摂取量(飲食、体内でつくられる代謝水)と排泄量(尿や便、呼吸・皮膚からの蒸発)がそれぞれおよそ2,000mL前後でつりあうことで保たれています。発熱、下痢、嘔吐の際には排泄量が増えるため、意識的な水分補給が大切になります。

いろいろある?輸液の種類

TYPE OF INFUSION

輸液は、体の状態や治療目的に応じて使い分けられており、大きく ①水分をおもに補う輸液製剤、②水分と電解質を補う輸液製剤、③栄養を補う輸液製剤、④血管の中の水分を保ちやすい輸液製剤 の4つに分類されます。

※右にスクロールしてご覧いただけます

輸液の種類 おもな構成成分 おもな目的
水分をおもに補う輸液製剤 水分、ブドウ糖など 水分補給
水分と電解質を補う輸液製剤 ナトリウム、カリウム、クロールなど 脱水の改善、体液バランスの調整
栄養を補う輸液製剤 糖・アミノ酸・脂肪、ビタミンなど 栄養補給
血管の中の水分を保ちやすい輸液製剤 アルブミンなどのタンパク質 血管内水分保持

水分をおもに補う輸液製剤

 その名の通り、体に水分を補給することを主な目的とした輸液製剤です。ブドウ糖液は体内に入ると、ブドウ糖がエネルギーとして利用され、水分は全身に行き渡ります。軽度の脱水状態や、食事量が一時的に減っている場合、発熱時などに用いられます。

水分と電解質を補う輸液製剤

 水分に加えて、体に必要なナトリウム、カリウム、カルシウム、クロールなどの電解質を含む輸液製剤です。等張性電解質輸液と低張電解質輸液に分けられ、いずれも体液バランスを整える目的で使われます。前者は下痢、嘔吐、発汗などによる脱水時に水分、電解質を急速に補充するため、後者は生命を維持するために必要な成分を補給することを目的として重要な役割を果たします。

欠乏するとどうなる?

脱力感、筋力低下、食欲不振、骨格筋麻痺など

カリウムの場合

輸液の役割と使い分け カリウムの場合

過剰になるとどうなる?

四肢のしびれ、心電図異常、重篤な場合は心停止

栄養を補う輸液製剤

 水分や電解質に加え、糖分、アミノ酸、脂肪、ビタミン、ミネラルなどを含む輸液製剤です。食事が十分にとれない際に、不足している栄養素の包括的な補給をすることによるエネルギー供給と体の維持・回復、また、手術後・重い病気の治療中・高齢者や慢性疾患のある方などにおいて、体の維持と回復を支えます。

血管の中の水分を保持する輸液製剤
(アルブミンなど)

 アルブミンなどのたんぱく質を含む輸液製剤です。血管の中に水分を保ちやすくする働きがあり、病状に応じて使われます。低アルブミン血症、肝疾患、重症時の循環管理などで用いられることがあります。

豆知識

輸液の投与方法としては、腕などの血管(末梢静脈)から投与する方法が一般的ですが、より長期に、より高カロリーの輸液が必要な場合は、心臓に近い太い血管(中心静脈)からの投与が行われます。

輸液の役割と使い分け 豆知識

輸液の注意点

 このように輸液は効果的な治療行為ですが、電解質異常や点滴部位の炎症(静脈炎)などの注意点もあります。たとえば、必要以上に輸液を行うと、体に水分がたまりすぎてむくみが生じたり、心臓や腎臓に負担がかかったりすることがあります。とくに高齢者や、心臓・腎臓に持病のある方では、慎重な管理が必要です。

 そのため、輸液の量や成分、投与速度などは、年齢、体重、病状、検査結果などを踏まえて医師が個別に判断し調整しています。

輸液の歴史

HISTORY

 いまでは身近な輸液ですが、その確立までには長きにわたる試行錯誤の歴史があります。多くの医師や研究者の挑戦の積み重ねによって、現在の安全な輸液療法が形づくられてきました。

 17世紀前半、イギリスの医師William Harveyが、血液が体内を循環していることを発見しました。この発見により、「血管に入れたものは全身に運ばれる」という考えが生まれたのでしょう。1650年代には、Sir Christopher Wrenが、ガチョウの羽や豚の膀胱を用いて、イヌの血管内に液体を注入する実験を行ったことが記録されています。

 輸液が実際の治療として大きく前進したのは、1830年代に世界的に流行したコレラがきっかけでした。激しい下痢や嘔吐による脱水で多くの命が失われる中、1832年にイギリスの医師Thomas Lattaは、食塩と重曹を溶かした液体を患者さんの血管内に投与しました。その後、1883年にイギリスの生理学者であるSidney Ringerが、食塩に加えてカルシウムやカリウムを配合したリンゲル液を開発し、現代における輸液療法の原型となりました。

 20世紀に入ると、体内の酸塩基バランス(pH)を整える目的で乳酸リンゲル液が開発され、その後酢酸リンゲル液が開発されました。

 さらに医学が進歩するにつれ、輸液は単なる水分・電解質の補給にとどまらず、栄養を補う手段としても発展していきました。まず、ブドウ糖を含む輸液製剤が登場し、エネルギー補給が可能となりました。続いてアミノ酸や脂肪などの栄養を含む輸液製剤も開発され、口から十分な食事がとれない患者さんでも、体力を維持しながら治療を受けられるようになりました。

 また、輸液容器の開発も進みました。輸液は当初、大型のガラスの容器に入っていましたが、プラスチック製やソフトバッグ型の容器が普及したことなどが影響し、感染のリスクを減らすことができ、利便性と安全性が大きく向上しました。

輸液の歴史 20世紀の飛躍的進化

 このように輸液は、長い歴史の中で改良を重ねながら、現代医療を支える欠かせない治療手段として定着してきました。私たちが日常的に目にする点滴の背景には、多くの知恵と工夫が詰まっているのです。

豆知識

輸液に使う針には「翼状針」と「留置針」の2種類があります。翼状針は針が短く、固定しやすいのが特徴で、採血や短時間の点滴に向いています。留置針は血管内にやわらかい管(カテーテル)を残すため、長時間の点滴に適しています。

輸液の歴史  20世紀の飛躍的進化 豆知識

参考

  • ・輸液製剤協議会HP. 輸液(点滴)について. https://www.yueki.com/#yueki
  • ・木下佳子監. これならわかる!輸液の基本と根拠. ナツメ社、2019年
  • ・神谷貴樹. 輸液の成り立ち. 薬局. 2025;76(11):10-13

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